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松本吉泰(教授) 分子研リポート2003 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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184 研究系及び研究施設の現状

ナノ光計測研究部門

松 本 吉 泰(教授)

*)

A -1)専門領域:表面科学、分子分光学

A -2)研究課題:

a) 走査型トンネル顕微鏡による銀表面における酸素消失光反応の研究 b) 擬一次元表面化合物の構造揺らぎと反応

c) 表面第二高調波発生による表面フォノンの超高速実時間測定

d) 多光子光電子分光と第一原理計算によるナノグラファイトの電子状態の研究 e) 有機半導体薄膜における電子緩和ダイナミックス

f) Pt(111)-(2×2)O 表面におけるメタノールの反応

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) A g(110)表面を酸化すると擬一次元表面化合物とでもいうべきA gO鎖が表面に(n×1)構造をとる。本研究グループは 昨年度,この酸化表面に紫外光を照射すると酸素原子が表面から消失し,A gO鎖がなくなることを見出し,この酸素 消失光反応のメカニズムについて集中的に研究を行った。その結果,表面上に存在する炭素種が重要な役割を果た していることをはじめて明らかにした。そこで,本年度はST M観測によりこの酸素消失光反応によるA gO鎖の表面 構造変化を直接観測した。その結果,表面炭素原子が存在する表面では A gO鎖がバンドル状に存在し,(2×1)構造を 保ったまま光反応が進行すること,また,炭素原子の存在しない清浄表面では前年度行ったX PS などの実験結果か ら予想されたようにまったく光反応が進行しないことを明らかにすることができた。

b) 清浄なA g(110)表面に形成された擬一次元表面化合物であるA gO鎖は,表面における被覆率が小さくなるとお互い に間隔が広くなると同時に,鎖の途中で鎖の一部が直線性を乱すような構造揺らぎをはじめることを S T M により 観測した。一方,この表面を C Oに曝すと C Oが容易に鎖中の酸素原子により酸化され C O2として表面から取り除か れる反応がごく低温でも起きることがわかっている。そこで,この反応効率と構造揺らぎの間の関係を詳細に調べ た。その結果,興味深いことに,A gO鎖の構造揺らぎが起きると共に,C Oの酸化反応が急激に進行することを見出し た。これは,A gO鎖の構造揺らぎにより,C O酸化反応の活性点が動的に作られることに起因する。表面反応では,表 面におけるステップや欠陥サイトが重要な活性点であると従来から考えられている。これの活性点が通常静的な描 像でとらえられているのに対して,本研究では反応活性点が動的に作り出されることをはじめて具体的な例として 示すことができた。この概念は,表面反応のみならずクラスターなどの有限な温度における構造揺らぎが頻繁に起 きる少数多体系における反応においてもきわめて重要といえる。

c) 表面近傍の電子励起に伴い電子状態の緩和,電子エネルギーの格子振動への移動などが極めて短時間のうちに起き る。これらの過程は,表面光反応にきわめて密接な関係がある。そこで,フェムト秒領域でのポンプ・プローブ表面第 二高調波発生の実験を行った。まず,GaA s(100)-c(8×2)の清浄表面に注目した。観測した第2高調波強度にはポンプ 光により生成されたキャリヤーダイナミックスを反映するシグナルに表面原子の振動を反映するビート状の信号 が重畳している。このビート状信号をフーリエ変換することにより格子振動スペクトルを得ることができた。さら に,この研究を金属表面での吸着種に拡張した。Pt(111)表面に C s を単原子層以下の被覆率で吸着させ,この表面に

(2)

研究系及び研究施設の現状 185 おける時間分解第二高調波発生を観測した。その結果,2.3 T Hzの振動成分を持った減衰信号をきわめて高いS /N比 で観測することに成功した。これは,C sと白金表面との結合における伸縮振動がコヒーレントに励起され,位相緩和 をしていく様子をあらわしており,金属表面上でこのような振動波束のダイナミックスを観測した初めての例であ る。このきわめて高い強度の信号は C sにより誘起される電子状態間の遷移に共鳴した impulsive R aman散乱に起因 していると考えられる。

d)表面光化学において吸着種の非占有電子状態が重要な役割を果たしている。Pt(111)表面に形成されたグラファイト 単一層の占有,および,非占有状態を紫外,多光子光電子分光により観測した。グラファイトのサイズは平均して6 nm 程度である。さらに,これらのナノグラファイトを原子状水素に曝すと,σ*励起状態とπ占有状態に起因するスペク トル強度がともに顕著に減少することを見出した。これは,ナノグラファイトのエッジ領域に水素原子が結合した ために起きるものと推測される。そこで,第一原理による量子化学計算を行い,この水素添加の様式とこれによる電 子状態変化のメカニズムを明らかにしようとした。ナノグラファイトのモデル分子としてコロネンを用い,B 3L Y P/ 6-31G(d,p)レベルで水素吸着に対するポテンシャル曲線を描くことによって,グラファイトテラス内部の炭素でも エッジにある炭素でも水素が吸着することが明らかになった。また,ST Mによる直接観測においてもグラファイト のテラス内のサイトで水素添加に基づくと思われる構造変化が観測された。したがって,光電子分光により明らか にされた水素原子暴露に伴う電子状態の変化は,エッジのみの水素修飾ばかりではなく,ナノグラファイト内部の テラスサイトの水素修飾も重要な役割を果たしていると考えられる。

e) 有機半導体を用いたE L 素子において,その薄膜中における電子緩和きわめて重要な素過程である。そこで,本研究 科題では紫外光電子分光により有機半導体薄膜の占有電子状態を明らかにすると共に,フェムト秒時間分解多光子 光電子分光により,励起状態の緩和過程を実時間で観測した。具体的な系としてはペリレン誘導体のPT C DA をとり あげた。この分子は薄膜中では第一励起一重項状態がきわめて迅速に失活することが知られていたが,どのような タイムスケールでこの無輻射遷移が起きるかはまったくわかっていなかった。しかし,本研究の時間分解多光子光 電子分光により,この励起状態が 360 fs で失活することをはじめて観測することができた。

f) 白金表面におけるメタノールの反応は燃料電池においてきわめて重要である。本研究課題では,昇温脱離と反射赤 外分光により酸素修飾したPt(111)-(2×2)O表面におけるメタノールの反応を詳細に研究した。その結果,メタノール

被覆率が小さい場合には,従来の研究ではまったく観測されたことがなかったフォルムアルデヒドやフォルメート が反応中間体として生成されることをはじめて明らかにした。また,これらの中間体はC O共吸着種により不安定化 されることも明らかにした。このように,C Oは白金表面においてメタノールの酸化反応を被毒するばかりではなく, 反応中間体を不安定化することがわかった。

B -1) 学術論文

O. NAKAGOE, M. OHTA, K. WATANABE, N. TAKAGI and Y. MATSUMOTO, “Structural Changes of AgO Chains on

Ag(110) by Photo- and CO-Induced Oxygen Elimination,” Surf. Sci. 528, 144–150 (2003).

Z. LIU, T. SAWADA, N. TAKAGE, K. WATANABE and Y. MATSUMOTO, “Reaction Intermediates in the Oxidation of

Methanol on a Pt(111)-(2×2)O Surface,” J. Chem. Phys. 119, 4879–4886 (2003).

O. NAKAGOE, K. WATANABE, N. TAKAGI and Y. MATSUMOTO, “Role of Structural Fluctuation in a Surface Reaction Studied by Scanning Tunneling Microscopy: The CO + O → CO2 Clean-off Reaction on Ag(110)(2×1)-O,” Phys. Rev. Lett. 90, 226105 (4 pages) (2003).

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186 研究系及び研究施設の現状 B -4) 招待講演

松本吉泰, 「時間分解S HG法による表面吸着原子層振動モードの実時間測定」, 日本物理学会, 領域5・領域9合同シンポ ジウム「表面多光子分光の可能性を探る」, 仙台 , 2003年 3月 .

松本吉泰 , 「表面科学のフロンティア―非熱的表面過程を中心として―」, 第 2回分子科学研究会シンポジウム, 岡崎 , 2003年 5月 .

Y. MATSUMOTO, “Coherent surface phonon dynamics on a Cs-covered Pt(111) surface studied by time-resolved second harmonic generation,” 39th IUVSTA Workshop on Ultrafast Surface Dynamics, Telluride, CO, June 2003.

松本吉泰 , 「擬一次元表面化合物の構造揺らぎと反応性」, 東京大学物性研研究会 , 東京 , 2003年 7月 .

Y. MATSUMOTO, “Dynamic formation of reaction sites at nano-structured one-dimensional surface compounds,” SPIE Symposium on Physical Chemistry of Interfaces in Nanotechnology, San Diego (U. S. A. ), August 2003.

松本吉泰 , 「実験研究の現状」, 分子科学研究所研究会「固体表面における非熱的電子励起状態の化学」, 岡崎 , 2003年 8 月 .

Y. MATSUMOTO, “Observations and Selective Excitation of Coherent Surface Phonons on Pt(111),” Japan-Taiwan Joint

Seminar Toward Formation New Network Between Physics and Chemistry on the Frontiers of Material Sciences, Taipei (Taiwan), December 2003.

B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

日本化学会東海支部代議員 (1993-1994). 学会の組織委員

第1回 日米分子科学若手ワークショップ 組織代表者 (1991). 第8回 化学反応討議会 プログラム委員 (1992).

第51回 岡崎コンファレンス 組織委員 (1994).

分子研研究会「分子−表面ダイナミクス」 組織委員 (1995).

大阪大学 50周年記念シンポジウム「固体表面動的過程」 組織委員 (1995). IMS International C onference 組織委員 (1997).

分子構造総合討論会 プログラム委員 (1997).

Ninth International C onference on V ibrations at S urfaces 組織委員 ( 1997). 2000環太平洋国際化学会議 組織委員 (2000).

第 2回表面エレクトロニクス研究会 実行委員長 (2000). 文部科学省、学術振興会等の役員等

日本学術振興会学術参与 (1999- ).

科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会理工系委員会委員 (2003- ). 科学研究費の研究代表者、班長等

総合研究大学院大学グループ研究「光科学の新展開」研究代表 (1997-1999).

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研究系及び研究施設の現状 187 B -8) 他大学での講義、客員

東京工業大学大学院理工学研究科大学院化学専攻 , 「化学特別講義第三」, 2003年 11 月 12-13日 .

C ) 研究活動の課題と展望

「固体表面上でのレーザー誘起反応ダイナミックス」の研究課題のもとで金属や半導体の清浄表面に吸着した分子種の光 誘起過程に開する研究をおこなってきた。これに加えて,2光子光電子分光,表面第2高調波発生などの非線形分光により固 体表面における超高速現象の解明,表面コヒーレントフォノンの実時間観測と制御など,新しい観点から光誘起過程の機構 と動的挙動に関する分子論的な理解を深めることに研究の主眼を置く。また,原子・分子レベルの分解能を持つ走査型トン ネル顕微鏡による実空間観測により,吸着種の幾何学的構造と固体表面における反応の空間・時間発展を明らかにし,不均 一反応の根源的な理解を促進する。

*)2003 年 4月 1日着任

参照

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